そういうふうにできている
さくらももこのエッセイは、 初期エッセイ三部作という厳つめな肩書のついた 『もものかんづめ』『さるのこしかけ』『たいのおかしら』が有名で、 私もそれらを読んでゲラゲラ笑ったが、 泣いたのは『そういうふうにできている』が初めてだ。
これを読むとさくらももこが、 いかに優しくて、自立していて、冷静な思考の持ち主だったかがわかる。
テーマは”妊娠”。そして、”出産”だ。 個人的な読感としては、 「妊娠判明」という1章から 出産して一ヶ月が経った心境が書かれた「出発」と名付けられた最終章まで、 「ネタ」2割、「母親となった自身への俯瞰的な観察」8割だった。
さくらももこのエッセイの8割がネタだと思っている人は今すぐこれを手に取ってみた方が良い。
私がどこで泣いたかというと、最後の「出発」だ。 さくらももこが、彼女自身の視点においてこの世で生きていくとはどういうことなのかを語っていて、決して暑苦しい言葉を並べていないのに何だかカッコ良くて泣きそうになる愛を文字から感じる。 他のエッセイ作品から比較してみても特にこの章はどこか冷めているシュールな笑いをイメージしている人からすると驚くほどに、リアルに人としての優しさや賢さを感じる。 どちらかというとそれまで”さくらももこ”という人物像はシュールな笑いが染み付いているから、『ちびまる子ちゃん』のキャラクターでいうと野口さんに近かった。それが、ヒデ爺や佐々木のじいさんやまる子のお母さんのような温かい包んでくれるような人でありそうな人物像に変わるのだ。
読んだことがない人は、このおうち時間で暇なうちにさらっと読んで元気を出して欲しい。 何だろう。 紹介したいような紹介したくないような気持ちになるのだ。 もう何百万、何千万という人が読んだのかもしれない。 でも何となく、この真面目で優しくて賢いさくらももこは読んだ仲間同士で語り合いたい気がする。もしこの記事にたまたま出会った人の中で、『そういうふうにできている』について語りたい人がいたらぜひコメントしていただきたい。
最後に超個人的な話ではあるが、今交際している恋人と付き合った記念日は4年ほど前の5月8日だ。
5月8日はさくらももこの誕生日だ。
恋人と結婚して、もし子供が産むとなったら。 または、子供を産まないという選択をしたら。 私は友人にLINEで相談するより前に、この本を手に取ることを確信している。